大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)1425号 判決 1960年5月24日
事実
甲は乙に対し、昭和二八年八月一五日を弁済期とする金一五万円の準消費貸借契約上の債権を有し、同年一〇月三〇日には、この債権に基いて強制執行をなし、金四、五〇〇円余りの弁済を受けた。一方、乙は或る頼母子講の講員であつて、同年四月七日右講の管理人である丙に対し、落札給付金掛戻元本九〇万円及びその損害金債務の担保のため、この債務の支払を怠つたときは、その支払に代えて同人所有の土地建物を丙に譲渡する旨の代物弁済予約を為し、同時に、将来右債務を弁済した上でまた新しい口に加入する場合に備えて根抵当権を設定し、同月一一日その登記をした。ついで同年七月三日には、別口の落札給付金掛戻債務四三万円余を分割支払う債務の担保として、右不動産に別に抵当権を設定し、同年一〇月六日、その登記をしている。
ところが、乙は右講に対する支払を滞つたばかりでなく、他の債権者数名からも弁済を求められたので、丁に債務の整理を依頼した。当時、乙の債務は約二二〇万円、資産は動産不動産を合し約二〇〇万円で、債務超過の状態にあり、乙は債務整理のため、同年一〇月二〇日丙に対し右九〇万円の掛戻債務とその損害金債務の支払に代え、代物弁済予約にかかる不動産を同月二七日代物弁済による所有権移転登記をなし、丙は右不動産の一部を昭和二九年五月八日金一七〇万円で他に転売し、その売得金の内九四万円を控除した残金は、乙の他の債権者ABに対する一部弁済と乙の更生資金二〇万円とに充てた。
甲は、乙のなした右代物弁済は、他の債権者を害することを知つてなしたものであるとして、詐害行為取消の訴を丙に対し提起し、丙は、右代物弁済は、先になされた代物弁済予約に基き乙の債務不履行によつて、当然代物弁済の効力を生じたものであつて、新たに代物弁済契約を締結したものでないと抗争した。原審は甲の請求を容れ、詐害行為取消の判決をしたのに対し、丙が控訴したところ、大阪高裁は、次の理由の下に、原判決を取消して、甲の請求を棄却した。
「一の債権の担保の為代物弁済の予約をなし、抵当権の設定をした場合は、特段の事由のない限り、債務者の不履行によつて当然に代物弁済の効力を生ずるものでなく、予約完結権の行使によつて、代物弁済の効力を生ずるものと解するを相当とすべく、本件については特段の事由は認められない。又当事者間に交された契約書の記載からも、この代物弁済予約は債権者の一方的になす予約完結の意思表示を待つて、代物弁済の効力を生ずる趣旨のものと認めるのが相当である。従つて、丙の主張するように、債務者乙の債務不履行に因つて、当然に代物弁済の効力を生じたものということはできないが、証拠に依ると、乙丙丁の話し合いの上整理方法として、代物弁済予約の目的となつていた不動産を代物弁済として、丙に所有権を移転し、これを他に転売して債務の弁済にあてることとし、その実行として、先の代物弁済予約の完結権の行使をして、代物弁済の効力を生ぜしめたものと認むべきであり、甲の主張のように先の代物弁済予約と離れて、全然別個の代物弁済契約をしたものと解すべきでない。すると、右代物弁済は債務者乙のなしたものではないから、同人の詐害行為として、これが取消を求める甲の請求はその余の争点に付て判断するまでもなく、失当」